はじめに
割り勘・精算アプリ「FAMI-KAN(ファミカン)」を、たった一人で作った一級建築士です。子どもが2人いる、ごく普通の親でもあります。
本業は建築の設計です。それがなぜ、まったく畑違いの割り勘アプリを作ることになったのか。この記事では、開発者本人として、その「理由」だけを正直にお話しします。結論から言えば、私は学生の頃から二十年近く、ずっと割り勘の面倒と付き合ってきた——ただ、それだけの話です。
始まりは、学生時代のノートと勘
もともと車が好きで、運転そのものも好きでした。だから学生時代、友達と旅行に行くとなれば、自然と私が運転手役になることが多かった。人を乗せて遠くまで走るのは、まったく苦ではありませんでした。
苦だったのは、旅行そのものではなく、その後の「精算」です。
誤解のないように言うと、電卓ならありました。ガラケーの時代でしたが、足し算引き算くらいはできる。足りなかったのは"計算する道具"ではなく、"整理する仕組み"の方でした。
私はいつも、ノートに「誰が何を払ったか」を書き出していました。宿代を立て替えた人、食事をまとめて払った人、ガソリンを入れた人。それを少しでも見やすくしようと、支払った人ごとにペンの色を変えたり、日付ごとに並べたりと、ヌケモレが出ないよう自分なりに工夫していたのを覚えています。バラバラの立替を一枚のノートに集約し、最終日にまとめて現金で回収する。しかも帰り道の高速代やガソリン代は、まだ発生していないぶんを"予測"して先に含めておく必要がありました。
集計のやり方も、今思えば大雑把でした。まず全体の平均額を出して、そこを起点に「後輩や、あまり懐に余裕のない子は少し安めに」といった具合に、手加減で調整していく。要は、頭の中で"傾斜をつけた割り勘"をやっていたわけです。
結果どうなったか。計算が合わないのは、日常茶飯事でした。電卓を叩いても、そもそも整理と配慮の部分がノートと勘頼りなので、どこかで数百円ずれる。ノートを見返して、また最初から。そんなことを旅行のたびに繰り返していました。若かったからこそ笑って済ませていましたが、今思えば、あれが私と割り勘の長い付き合いの始まりでした。
大人になっても、壁は同じだった
時が経ち、学生は社会人になり、親になりました。ガラケーはスマホに変わり、電卓もアプリになりました。それでも——割り勘の面倒は、まったく減っていませんでした。
象徴的だったのが、毎年恒例の新年会です。その年は6世帯、大人8人・子ども8人の合計16人という大所帯。会場を借り、食事をして、まだ早いからと二次会へ。楽しい時間はあっという間に過ぎていきます。そして宴もたけなわ、みんなが二次会で盛り上がっている、その最後の30分——私だけが、スマホの電卓とにらめっこしていました。
この日の精算は、やはり「総額÷人数」では終わりません。頭の中には、いつもの声が渦巻いていました。
- 「大人と子供で、金額は変えたいよね」
- 「あんまり飲まなかった人は、少し安くしてあげたい」
- 「会場代はみんなで割るとして、二次会は行った人だけだよな」
道具は学生時代よりずっと進化したのに、「バラバラの立替を整理して、一人ひとりへの配慮まで反映する」という根っこの面倒は、二十年近く経っても何も解決していなかったのです。電卓が速くなっても、そこは相変わらず自分の頭とメモ頼り。夜中に何度もやり直し、最後は「面倒だから自分が少し多めに」と自腹で丸める。あの帰り道、私はようやく本気でこう思いました。「これ、アプリで一発計算できたら、最高じゃないか」と。
面倒なのは、幹事のときだけではなかった
もう一つ、忘れられない場面があります。今度は私が幹事ではなく、"参加する側"だったときのことです。
ある集まりで、精算に割り勘ツールを使うことになりました。ところが私は、そのためだけにアプリを入れるのが億劫で、ダウンロードしませんでした。すると今度は、自分の使った金額を、幹事に口頭で伝えなければならない。それも、何かの合間のちょっとしたタイミングで「あれ、いくらだっけ」とやり取りするのは、地味に面倒でした。
そして、ようやく共有された精算結果。出てくるのは、金額だけ。「自分はなぜこの金額になるんだろう」と内訳を知りたくても、そこは分かりませんでした。幹事も、参加者も、どちらも小さなストレスを抱えている。——このとき私は、割り勘の面倒は「計算する人」だけの問題ではないのだと、はっきり実感したのです。
だからFAMI-KANは、参加者にアプリのダウンロードも会員登録も求めません。幹事がURLを送れば、受け取った人はそれを開くだけ。しかも、ただ金額を突きつけるのではなく、各自が「自分がなぜこの金額なのか」を確認できるように——参加する側の「あの、もやっとした気持ち」を、少しでも減らしたいと考えています。
だから、自分で作った
思い立ってからは、止まりませんでした。土日は寝る以外ずっと開発に費やし、平日も仕事を終えてから夜中まで画面に向かう。そんな生活を約2週間続けて、最初のFAMI-KANが形になりました。動機は、ずっと一つだけ。あの「計算が合わない」を、二度と起こさないため。そして、幹事が精算に奪われる「最後の30分」を取り戻すため。
一番こだわったのは「複雑な計算を、簡単な画面にする」こと
開発で一番悩んだのは、技術ではなく「複雑な割り勘を、いかに"誰でも迷わず使える画面"に落とし込むか」でした。計算そのものは、条件さえ入力すればコンピュータが一瞬で解いてくれます。問題は、その条件を入力する画面が複雑では、結局あの学生時代のノートやエクセルと変わらないことです。
「妻でも、ママ友でも、迷わず使える」——その一点にこだわって、入力の手順を何度も削り、並べ替えました。会員登録もアプリのインストールも不要。ブラウザを開いて、名前と金額を入れるだけ。この「入り口のハードルをゼロにする」ことに、開発時間のかなりの部分を使いました。
「建築士がなぜアプリを?」とよく聞かれますが、実はそれほど遠い話ではありません。建築で培った「まず全体を設計し、パーツに分解して、一つずつ組み上げる」という考え方は、そのままアプリ開発に通じました。設計図を描く感覚と、驚くほど似ていたのです。
FAMI-KANでできること
学生時代から新年会まで、私自身がぶつかってきた「あるある」を、そのまま解決できるように設計しました。
- 大人と子供で金額を変えられる:子どもは負担を軽く、あるいは無料に。比率を設定するだけで自動計算します。
- 飲む人・飲まない人で傾斜をつけられる:「たくさん飲んだ人は多め、飲まない人は少なめ」を、比率で反映できます。学生時代に「平均を出してから手加減で調整」していた、あの配慮をそのまま仕組みにしました。
- 「世帯」でまとめられる:財布が同じ夫婦や家族を、一つの精算単位として扱えます。夫と妻がバラバラに請求されて分かりにくい、ということが起きません。
- 複数人の立替を、最小の送金で精算:あの学生時代、色分けしたノートに「バラバラの立替」を並べていた作業そのものです。誰が何を立て替えても、「結局、誰が誰にいくら払えば全員チャラになるか」を、送金回数が最小になるよう自動で導き出します。
- 結果はURLひとつで共有:計算結果のリンクを送るだけ。各自が自分の負担額を確認できます(実際の送金は、PayPayや銀行振込など普段お使いの手段でどうぞ)。
「最後の30分」を、取り戻すために
色分けしたノートを見返して、数百円のズレを直していたあの頃から、ずいぶん時間が経ちました。FAMI-KANで実現したいのは、たった一つです。幹事が精算に奪われていた時間を取り戻すこと。
その時間を電卓ではなく、目の前の仲間や子どもたちとの時間に使ってほしい。地味だけれど毎回必ず発生するこのストレスを、二十年付き合ってきた一人の人間として、少しでも軽くできたら——そう願って、今日もこのアプリを育てています。
もしあなたが次に幹事を任されることがあったら、ぜひ一度、試してみてください。会員登録もダウンロードも要りません。あなたの時間が、少しでも自由になりますように。
